本領域研究は、核酸科学(A01班)、合成化学(B01班)、細胞生物学(C01班)、計算科学(D01班)をシームレスに横断する異分野融合研究であり、それぞれの分野における最先端技術を駆使し、中分子医薬の直接的な細胞内送達の実現を目指します。

A01 解る(核酸医薬の薬効評価)

膜モジュレータ分子(分子マシン・ペプチドなど)と核酸医薬を細胞に作用させ、その薬効を指標に膜モジュレータの機能を理解します。

大澤 昂志

大阪大学大学院薬学研究科・助教
専門分野 核酸科学、有機合成化学

研究分担者:笠原勇矢
医薬基盤健康栄養研究所・プロジェクトリーダー
専門分野 核酸科学、分析科学

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 2024年現在までに約20種類の核酸医薬が開発されてきましたが、それらには例外なく化学修飾された高機能性核酸分子が利用されています。一方で、核酸医薬は細胞膜透過性が低く、その実用化の加速する上で課題として認識されています。しかし、その低い膜透過性を核酸の化学修飾技術のみで抜本的に改善することは極めて難しいとされています。そこで、核酸医薬の膜透過現象の本質を理解すること、核酸医薬のDDS基盤技術の確立につなげることを目的に、A01班では「細胞膜をゆらす」膜モジュレータ分子(分子マシン・ペプチドなど)と核酸の修飾技術を融合した核酸医薬を創製し、その薬効を評価します。これにより膜モジュレータ分子の機能を検証します。また、それとは別に、核酸の最先端の化学修飾技術を駆使して、実現困難とされている核酸医薬の細胞膜透過能向上を可能にする化学修飾核酸の開発に挑戦します。

B01 創る(膜モジュレータ分子の創製)

膜と相互作用する性質を備え、光などの外部刺激に応答して分子構造を大きく変えることができる膜モジュレータ分子を開発します。

三木 康嗣

京都大学大学院工学研究科・准教授
専門分野 有機合成化学、分子イメージング

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 核酸医薬は細胞膜透過性が極端に低く、実用化への大きな障壁となっている。核酸医薬の細胞膜透過を促進する既存の補助剤として、両親媒性脂質やカチオン性ペプチドなどが知られていますが、生きた細胞の恒常性を壊す可能性がある(毒性がある)、アニオン性の核酸医薬と凝集するといった問題点を抱えています。このような背景からB01班では、核酸医薬を高効率に細胞内へと到達させるため、光照射下、細胞膜に摂動を加え、核酸医薬の膜透過を促す分子マシン型の膜モジュレータ分子を創製します。細胞膜にとりついた分子が生体に低侵襲な光照射により繰り返し運動し、細胞膜を一過的に乱すという概念は前例がありません。本領域研究を通して、実験と理論の両面から膜を効果的にゆらす膜モジュレータ分子の設計指針・概念の確立を目指します。

C01 観る(細胞膜透過効率の評価)

細胞膜をゆらすペプチドや分子マシンを膜モジュレータ分子として利用し、顕微鏡観察や定量により膜モジュレータ分子が膜に与える影響と薬剤の膜透過効率を評価します。

川口 祥正

京都大学大学院化学研究所・助教
専門分野 細胞生物学

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 低分子医薬品や抗体医薬に取って代わる中分子医薬として核酸医薬が近年注目を集めています。しかし、その細胞内移行性の乏しさは解決すべき喫緊の課題であり、核酸医薬を高効率に細胞内に移行させる新たなツールや手法の開発が強く望まれています。これまでに私たちは、膜透過性ペプチドや膜曲率誘導タンパクに関する一連の研究を通じて、細胞膜の脂質パッキングを効果的に変化させること(本領域研究では「膜をゆらす」と表現する)が、機能性ペプチドやタンパク質の膜透過性向上に関与する可能性を明らかにしています。そこでC01班では、膜曲率を変化させるペプチドやB01班が開発する分子マシンを膜モジュレータ分子として利用し、 A01班が開発する人工核酸の膜透過性向上を狙います。さらに、膜モジュレータ分子の膜への作用様式について、D01班とともに実験と理論の両面から解析を進めることで、核酸医薬の効率的な膜透過に向けた基本原理を創出します。

D01 見通す(膜透過機構の理論的予測・解明)

理論・計算科学の立場から、細胞膜透過の分子シミュレーションを行い、膜モジュレーター分子の膜作用と核酸医薬の膜透過機構に迫ります。

篠田 渉

岡山大学大学院異分野基礎科学研究所・教授
専門分野 計算科学

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 B01班とC01班が開発する膜モジュレータ分子(外部刺激駆動型の分子マシン・膜透過性ペプチド)を用いた中分子核酸医薬の細胞内送達を実現するため、理論・計算科学の立場から、膜モジュレータの膜作用と核酸医薬の膜透過機構を分子シミュレーションによって探索します。膜モジュレータ分子の協同的な膜作用を理解し、膜構造の変形や細孔形成などを観察するため、我々独自に開発した定量的な粗視化力場を拡張し、大規模細胞膜系に適用することで、分子シミュレーションによって、A01班が作成する中分子核酸医薬の膜透過を促進する膜モジュレータ分子への必要要件を明らかにします。この分子機構が明らかになれば、より効率的で毒性の低い膜モジュレータ分子設計にフィードバックをかけることができ、これまでにない分子機構で中分子核酸医薬を送達する手法の確立につながります。

評価グループ

佐々木 茂貴 長崎国際大学薬学部・教授
浜地 格   京都大学大学院工学研究科・教授
深瀬 浩一  大阪大学大学院理学研究科・教授
岡崎 進   横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科・特任教授